金融OLとの5回目の食事 ~史上最大の試練~

僕は声を掛けられた男を見た。
それは同期の近藤(仮名)だった。
キム 「あ、どうも。ちょっとここで用があって」
近藤 「どの店ですか?」
キム 「2階の焼肉屋ですよ」
近藤 「俺もっすよ、同期の永井さん(仮名)と。キムちゃんも同期の誰かっすか?」
キム 「いや~、違ってちょっと知人と」
そう言って、僕は階段を登って店に入った。
金融OLを奥にすべく、通路側の席に座る。
近藤は僕より年下で、高校卒業区分で入った同期。
同期の中でもかなり目立つ存在で、知名度は抜群。
当然、僕はなるべく関わらないようにしていたが、最初の勤務地が一緒だったこともあり、顔見知りになってしまった。
歳は僕より下だが、コミュ障である僕の言動に目をつけ何かといじってくる。
もちろん敬語は使っているが、たぶん舐められている。
そして、近藤が言っていた永井。
彼も同期で、大学院に行っていた関係で僕よりも年上。
近藤とつき合うぐらいなので、彼もまた目立つ存在。
しかも研修のグループが同じだったので、永井とも僕は顔見知り。
近藤よりももう少し紳士的な人だが、研修の時は毎週のように飲み会を企画。参加せざるを得ない雰囲気を作られ、相当迷惑した思い出がある。
研修が終わり、職場を離れてからもちょくちょく飲み会の誘いがあったが、何回か断っているうちに最近は声もかからなくなりすっかり疎遠になっていた。
いずれにしても、数いる同期の中でも最も会いたくない奴らに会ってしまった。
さすがに、大人なので食事中に絡んでくることはないと思うが、相当気まずいことは言うまでもない。
神様は、なぜ恋愛弱者の僕に試練を与えるのだろう?大人しくセミリタイアを目指せというメッセージなのだろうか?
そんなことを考えていると、永井が到着したのか、近藤と永井が入店してきた。
永井 「おー、マジ久しぶり」
キム 「そうですね~、2年くらい会ってなかったですね」
永井 「これって、本当の偶然?」
近藤 「そうなんっすよ、すごいですね」
キム 「びっくりしましたよ」
近藤と永井は、僕の席から通路を隔てたカウンター席に座った。
僕と近藤、永井はお互いに背中を向ける配置。
もちろん、個室ではなく、近藤と永井が席に着くなり盛り上がっている声が聞こえてくる。
僕は、Twitterをチェックしたが、内容が全く頭に入ってこない。
福岡市150万人以上が住む大都市で、先日の国勢調査の速報値では神戸市抜いて人口第5位となった。
それだけの人が住む大都市で、10組程度しか入れないような小規模な焼肉屋。
福岡市はコンパクトシティで都心部は、主に博多駅周辺とこの天神だけということを差し引いても、こんな偶然ってあるんだろうか?
しかも、相当絡みたくない人物。僕のテンパりは避けられそうにもない。
しかし、ここは冷静を保たないといけない。
確かに彼らは同期だが、現在は違う勤務地で働いている。
「キムが女といた」と噂されるかもしれないが、もう同期の繋がりなんてほとんどないし、たまに顔を合わせても挨拶もしない関係になっているので、はっきり言って関係ない。
同じ職場の同僚に会うよりも、よっぽどましかもしれない。
余計なことは考えずに、金融OLと楽しい時間を過ごすことに集中しなければならない。
結局、金融OLは20時25分頃に「ごめんね~」と言いながら、やってきた。
黒のスカートに黒タイツ。僕の好きな恰好。そして黒のコートを来ていた。
席に座ってコートを脱ぐと、薄ピンク色のセーター。
今まで僕が思っていたよりも胸が大きかった。
身長は150台前半で、体も華奢なわりにそこそこ胸もある。
僕はその体を見て、抱きしめたいと思った。
しばらくして、店員が注文を取りに来た。
僕達は相談して、生ビール、豆腐サラダ、カルビ3点盛、シマチョウを注文した。
ビールが到着して乾杯する。
近藤、永井は今のところ2人で盛り上がっており、笑い声は聞こえてくるが、さすがにこちらには絡んでこない。
ほっと一安心だ。
キム 「仕事大丈夫やった?」
金融OL 「う~ん、他の人はまだ残ってた。年度末だから忙しいね」
キム 「そうか~、大変やな」
その後も、仕事の話など中心に会話が進んでいく。
今日は、恋など少し踏み込んだ話などをしたいと思っていた。
いつも通り、仕事や趣味の話ばかりしても、どんどん友達フォルダから抜けられなくなるばかり。
もちろん、今まで女性とつき合ったことがないなどとは口が裂けても言えない。
2・3人とつき合ったと適当な嘘をつき、自分のさらけ出しているふりをしながら、金融OLの話も引き出していく。
そして更なるラポールを形成していくのだ。
そんなつもりだったが、近藤、永井がいるという気まずさから一行にそんな話にもっていけない。
自分の会話もどことなく、ぎこちなくなってしまう。
僕のほうから積極的に話すことができずに、完全に聞き役に回ってしまう。
いつしか、時々沈黙が生まれるようになってしまった。
そこまで、重苦しい雰囲気ではないが、これまでの中では一番盛り上がりに欠ける。
僕はもうどうしていいか分からなくなってしまった。
22時頃、近藤と永井が帰る時、声を掛けてきた。
永井 「じゃあキムちゃん、俺らそろそろ帰るわ」
キム 「あ~、お疲れ様です」
そして、永井は金融OLにも声を掛ける。
永井 「あ、俺らキムくんの同期なんですよ」
金融OL 「へ~。何か2人で盛り上がってて楽しそうだなって思ってたんですよ」
金融OLは、あまり人見知りしない性格なんだろう。
僕なら間違いなく、軽く会釈して「どうも」と言うだけだが、普通に話している。
金融OL 「これまで3人でいたんですか?」
永井 「いや~、全くの偶然。俺らもびっくりしたわ」
近藤 「キムちゃんが女の子といて、俺らも気使ったんですよ」
キム 「あ、ありがとう」
永井 「早く帰ってほしいやろ?」
キム 「いやいや」
永井 「じゃあまた」
死ぬほど早く帰ってほしかった近藤と永井は去った。
その後、僕はややリラックスして会話に臨むことができた。
お互いの趣味の読書の話等で、明らかに前半よりも盛り上がった。
ただ、肝心の恋愛話にはならなかった。
やはり、近藤と永井がいるから、恋愛話ができないというのは、ただ僕の言い訳に過ぎなかった。
僕は単純ににヘタレだったのだ。
追加でチューハイ、骨付きカルビ、タン塩、上ロースの握りも頼み、かなりお腹いっぱいになった。
そして、22時40分に僕達は店を出た。
会計は8,800円。今回は、金融OLも払う意志を結構見せたので、2,000円だけ受け取った。
外は、春の訪れを感じさせ、冷たい風はない。
超予定外の自体に、ただただ狼狽するばかりだった。
しかし、過ぎ去ったことは仕方がない。
今日の一大イベントは今からなのだ。
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