金融OLとの4回目の食事 ~食事後~

10時過ぎ、僕たちは店を出た。
ある意味で、ここからが僕の闘い。今までは、ほんの序章に過ぎないのだ。
店を出たところで、金融OLが「ちょっとお手洗い行ってくるね」と言い、トイレに向かった。
今日会って約2時間で、金融OLがトイレに行くのはこれで3回目。
ちょっと多すぎやしないだろうか。
本命男のLINEでも確認しに行ってるのか、僕の疑心暗鬼がまた始まった。
僕もトイレに行き、鏡を見る。
僕は、お酒を飲むとすぐに顔が赤くなってしまう。それをいじられ、いつもテンションが下がっていまい会話が思うようにいかなくなってしまう。それが今までの失敗パターンだ。
今日もビール1杯とカクテル2杯を飲んだが、当然のように顔が赤くなっている。
こんなダサい格好で、今から告白をするのだ。
トイレを出て、少し待っていると金融OLも出てきた。
そして、ビルから夜の街に出た。
金融OLからは、変わらずほのかに香水のいい香りがして、素敵な女性だ。
本当に愛おしい。こんな女性とこれからも一緒にいられたら、どれほど幸せだろう。
セミリタイアしたい夢なんか、忘れてしまうかもしれない。
平日の10時過ぎだが、九州一の繁華街、天神は多くの人で賑わっている。
前回は人通りの少ない公園で告白したが、ここから駅までにそんな場所はない。
こんなに人が多い街中で、どうやってそんな展開にもっていけばいいのだろう。
金融OL 「明日も早いの?」
キム 「う~ん、7時前には起きるかな」
金融OL 「そうなんだ、私も同じくらい」
キム 「仕事の始まりはいつから?」
金融OL 「8時半からだよ」
相変わらず他愛もない会話が続く。
しかし、後から考えれば、「明日も早いの?」との質問時に「いや、そんなことないから、もう1件行こうよ」と切り返せばよかったのかもしれない。
落ち着いたバーにでも行けば、告白のチャンスはいくらでもあっただろう。
これは金融OLからのスルーパスだった。
僕は、ゴール前でフリーの絶好シュートチャンスを外した。いや、シュートチャンスと気がつかずに、シュートすら打てなかった。
僕達は交差点を渡った。
これを渡り終えると、そこはもう駅だ。
今日は、必ず白黒つけてやると固く心に誓った。
金融OLとつき合える確率は、5%もないに違いないが、思いを伝えないことには始まらない。
その勇気を振り絞れない限り、僕は永遠に変わることはできないだろう。
でも、この多くの人が行きかう中で、どうやって告白すればいいのだろう。
そんなことを考えているうちに、交差点を渡り終え、とうとう駅に着いてしまった。
駅の改札を通過し、ホームへと向かっていく。
電車に乗り込めば最後、告白なんてできない。
幸いにも、電車の到着までは5分ほどあり、もうここしかない。
しかし、ホームにも電車を待つ多くの人がいて、告白なんかできる雰囲気ではなかった。
無情にも電車が到着して、僕達は電車に乗り込んだ。
電車では立っている人もいて、それなりに混んでいる。
さすがに、この中での告白は無理だ。
僕は、次の約束を取り付けることに作戦を切り替えた。
キム 「今日の魚美味しかったな」
金融OL 「だね~、ブリカマよかったね」
キム 「焼き鳥も水炊きも魚も行って、次は何にしよう?」
金融OL 「う~ん・・・」
いつもあれば、金融OLも次の店に乗り気なのだが、今日は何も言葉が出てこない。
その間に耐えられず、僕は話始めた。
キム 「エスニックとかは?」
金融OL 「タイとか?」
キム 「いいかもな」
金融OL 「前、○○(地名)で、タイ料理の店行ったことがあって、結構美味しかったんだよね」
キム 「いいね、行ってみる?」
金融OL 「う~ん、でも3年前ぐらいで・・・まだあるのかな?」
キム 「じゃあちょっと色々リサーチしてみる」
金融OL 「うん」
これまで、次の誘いをした際には、金融OLは「じゃあ行こっ」みたいに乗っかてくれた。
しかし、今日は明言を避けているように聞こえる。
これは遠まわしに断られているのだろうか?
もはやこれまでなのだろうか?
僕は、確認することが怖くて、それ以上何も言えなかった。
金融OLが降りる駅まであと1駅あるが、僕達は無言で席に座っていた。
駅に着いて、金融OLは「じゃあね」と笑顔で手を振って、降りていく。
その笑顔は、僕1人に向けられている。
僕のために笑顔を作ってくれている。
でも僕には、決して手に入らない遠い遠い存在に感じた。
電車が僕の駅について、下車して改札を潜る。
同じように、帰りを急ぐサラリーマンや若者たちも電車を降りる。
改札まで向かう階段の途中、僕は自分が本当に情けない奴だという思いに襲われた。
海鮮居酒屋の店内は、多くのお客さんがいて告白できる雰囲気ではなかった。
店から出ると、都会のど真ん中で、ここでも告白は無理。
まして、電車の中では不可能だ。
しかし、そんなことをただの言い訳に過ぎない。
別に、告白は静かな場所にするなんて決まりは、どこにもない。
店の中でしたっていいし、街中でしてもなんの問題もないのだ。
金融OLに足を止めてもらい、自分の思いを伝える。
2時間半もあって、そんなチャンスはいくらでもあったはずだ。
でも僕にはできなかった。
リア充の金融OLとの差を感じて、怖気図いてフラれるのが怖くて、すました顔して紳士を演じた。
雰囲気も何も考えずに告白するのは、かっこ悪い。
しかし、一番かっこ悪いのは、ちっぽけな自分のプライドを守り、何もできないことだ。
階段の上にいる、クタクタのスーツを着たサラリーマンは確かにかっこ悪い。
でも、このサラリーマンだって、勇気を持って告白して、奥さんと結婚したとしたら・・・
それは最高にかっこいい。
結局、チャンスがありながら何もできなかった僕は、本当にかっこ悪いのだ。
クタクタのスーツを着たサラリーマンにも、見るからにバカそうな茶髪の若者にも人生という勝負で、負けているのかもしれない。
僕は、敗北感を感じ、家の扉を開け、誰もいない暗い部屋に帰った。
きっと、僕は1年後も、5年後も、10年後も一生この暗い部屋に1人で帰ってくるのだろう。
奥さんがいて、子どもがいてという生活を望んでいるわけじゃないけど、僕には1人ぼっち以外に選択肢がないのだ。
仕事でも、私生活でも誰からも必要とされず、小さな暗い部屋で一生を終えるのだろう。
今までは、その現実から目を背けてきたが、今日はそんなことを思わずにはいられなかった。
僕は、全てを洗い流したいと思い、熱いシャワーを浴びた。
いつもより長く。
そして、その時間だけは、何も考えずにいることができたのだった。
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